アルバム『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』で初めて収録・公開された楽曲『IDOL』。
アルバムのコンセプトに沿ったリード曲でありながら、BTSの意思・決意を強く表明しているメッセージ性の強い楽曲に仕上がっています。
IDOL というテーマ
Hiphopというジャンル、ラッパーというバックグラウンドを持つRM(Sugaも同様でしょう)は、エンタテインメント会社に所属してアイドルグループの活動をするという、
一部の人間から見ると “筋の通らない” 人物に見えていたかもしれません。批判もあったでしょう。
しかし、BTSは多くの楽曲の制作に関わっていて、表現しているものは 誰かから押し付けられたものではありません。
RMは、2015年のミックステープ 『Awakening』 にて以下のように歌っています
Every night inside me I quietly fight with myself
My heart pounds, my colleagues stab me in the back
While saying that I became a moron after joining a company
Yeah fuck you I’m an idol, yeah yeah I’m an idol
At one time I hated it but now I love to get that title.毎晩 俺は自分自身と戦っている
心が押しつぶされそうだ 同業の奴らは背中を刺してくる
会社に入って俺はおかしくなっちまったって言ってるが
うるせぇ そうだよ俺はアイドルさ そう アイドルなんだよ
前までは聞くのもウンザリだったが 今ではもう大好きになった
自分が選んだ道は、必ずしも皆から称賛で迎えられるわけではありません。
批判、皮肉、自己嫌悪、自虐、自責、同族嫌悪…
様々な感情が頭を悩ませる事があったでしょう。
音楽業界に属する事によっては、’この音楽をやるならこのスタイルでないといけない’ といった融通の利かない、非合理な ‘社会通念’ が彼(彼ら)の創造性を圧迫することがあったかもしれません。
アルバム『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』のコンセプトアートの一種は、メンバーが監視カメラや人の目、手に囲まれたものでしたね。
自分は自分、それだけのこと
アーティストと呼んだっていい
アイドルと呼んだっていい
他の呼び方だっていいさ こっちは気にしないから誇りに思ってんだ
俺は自由さ
皮肉言ってどうなる
俺は俺、ただそういうことなんだから
彼らの活動や彼ら自身は、何かにカテゴライズされなければいけないものではなく、そうする重要性などもない。ただそうしたい者が勝手にすればいい。
後ろ指さしてるだろ 悪いが全く気にしちゃいない
俺についてあぁだこうだいう理由が何であれ俺が何者かは知ってるし
何を欲しているのかも知ってる
変わる気はないし
お前らに売り渡したりなんかしない
(失せな)
これはダイレクトにヘイター(アンチ)への意思表明です。
I never gon’ trade の ‘trade’ は商売とか交換、取引といった意味ですが、
文脈からして取引の対象となっているのは「俺自身」ということ。
つまり、物理的な体ではなく、信念、価値観、才能、創造性といったあらゆる「自分」のことを指していると思います。
続いて、“Trade off~!!” と叫んでいる部分。ここの解釈は人それぞれだったでしょう。
- トレードオフ(=相殺取引、妥協点、二律背反)
もとは経済学用語で、何かを増やすためには何かを減らさなければいけないとか、何かを得れば何かを失うといった意味。すべてを上手く行かせることはできず、妥協点が必要となる場面というのは人生の中で多くあります。 - Trade が Off だ(=取引しない、交渉の余地なし)
- fu*k off(=失せろ)のつもりで言った説も
「取引しない」 「俺自身を売り渡す気なんかない」という意思から少し飛躍した解釈になりますが、拒否する行動としては「fu*k off! =失せろ!」という叫びにも聴こえる?
もし本気で怒りを表現したいとしても、BTS名義として出す楽曲については ‘Fワード’ や放送禁止用語は使えないでしょう。
今回、僕は文脈から「失せな」と訳しました。
彼らのことですから、あらゆる意味が込められていておかしくはありませんね。
自分がすべきことをする
何をごちゃごちゃ言ってるんだ
俺は俺がすべきことをする
お前らはまず自分のすべきことを考えることだYou can’t stop me lovin’ myself
(お前には俺の自己愛をどうにかできやしない)
人がどう言おうが、自分の進む道を邪魔させてはいけません。
MIC DROP でも似たようなフレーズがありましたね。
人に対してああだこうだ言う前に、自分を省みろ、と。
Haters gon’ hate
(アンチはずっとアンチやってろ)
Players gon’ play
(遊ぶだけの奴はずっと遊んでろ)
Live a life, man
(お前の人生を生きろよ、なぁ)
Good luck
(じゃあな)
-『MIC DROP』より
アンチに対する怒りに任せたアンサーではなく、皮肉でもって答えています。
誰にもこの自己愛をどうにかできやしない
オルッス チョッタ!
(얼쑤 좋다=そーれ、いいぞ!)
ジファジャ チョッタ!
(지화자 좋다=よっしゃ、いいぞ!)You can’t stop me lovin’ myself
(お前には俺の自己愛をどうにかできやしない)ドンキドッ クンドロロ
(덩기덕 쿵더러러=太鼓の音、拍子)
掛け声はパンソリで使われる言葉、太鼓の表現はサムルノリで使われる言葉のようですね。
パンソリは、一人の歌い手がストーリーを語るように歌い、一人の太鼓(チャング)奏者がリズムを演出するスタイルの韓国の伝統芸能。
image: wikimedia.org
サムルノリは、韓国の伝統音楽。
youtubeなどでたくさん見られる通り、打楽器を中心とした賑やかな音楽です。
BTSが言う二面性
Face off ジョン・ウーのように ay
スポットライト浴びるトップスター ay
時にはスーパーヒーローになる
また回れば 君たちのアンパンマンのように
「Face off」 は、ジョン・ウー監督の映画の参照ですね。
ストーリーの概要としては、FBI捜査官の主人公が宿敵テロリストの顔を自分に移植して… という話です。
また、同じくジョン・ウー監督のヒット作「ミッション:インポッシブル2」でも顔を脱ぎ捨てるシーンがあります。
J-hopeはこの映画を引用し、BTSの二面性を表しています。
スーパースターとしてのBTS、みんなのヒーローとしてのBTS。
Anpanmanという曲ではヒーローとしてのBTSの心境が語られています。

映画が気になる方のためにリンクも張っておきました。
年齢制限のない、アクション映画です。
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24時間は短すぎる
迷ってる時間なんかない
やるべきことをやる
自分自身を愛するべきなんだ
俺の中には何十、何百の俺がいて
今日も新しい自分を迎え入れている
とにかく全部俺だから
迷うより ただ走れ
まず向き合うべきなのは自分。
ここの最後の行は『悩むよりGo(GoGo)』を思い出させるフレーズですね。
伝えたいことは、YOLO(You only live once=人生は一度きり)。
この瞬間が幸せならば
I’m so fine wherever I go
(どんな道を選択しても平気)たまに遠回りしたって
It’s okay, I’m in love with my-my myself
(大丈夫 自分自身が大好きだから)
It’s okay, I’m happy at this moment
(大丈夫 この瞬間が幸せなんだ)
このあたりは、彼ら自身の率直な想い、そしてファンやリスナーへの純粋なメッセージです。
人生は常に目標を追いかけたり、常に課題を解決しながら進まなければいけない訳ではありません。
今現在の自分の姿をしっかりと愛してあげて、楽しむのが人生。
『Paradise』でも次のように歌っていましたね。
マラソンのように
長い人生 焦らずいこう息がこみ上げて 苦しくなった時
止まったって 構わないんだ
– アルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』収録『Paradise』より
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